納品できる翻訳者になろう! 第4回 ネットを活用した訳語調査(1)
納品できる翻訳者になろう!
――ひよこ翻訳家のための基礎知識講座――
而立会認定中日翻訳士 井田 綾
第4回 ネットを活用した訳語調査(1)
外国語の意味を調べるとき「辞書を引くなら紙の辞書に限る」という考えは、現在ではいささか狭量かもしれません。どんな時にどんなリソースを活用したらよいか、ということをご紹介しようと思います。
1.紙の辞書とデジタル辞書の使い分け
【外国語学習には紙の辞書】
たとえば中国語の初心者がテキストで見た単語を調べたいとき、学習目的で辞書を引くなら、迷わず紙の辞書をお勧めします。
どのような意味を持った単語なのか、その意味は一つだけなのか、場合により複数の意味合いで使い分けられるのか、どのような単語と組み合わされるのか、その語が使われている熟語にはどんなものがあるのか、など、総合的な知識がパッと目に入ってきます。
単語を引いたときにも、その親字の項に目を走らせ、芯となる語素の意味を把握していけば、今後その語素に出会ったときの理解が深く、かつ早くなります。
【専門用語を俯瞰するのにも紙の辞書】
ビジネス現場や通訳・翻訳などで専門用語を駆使するような上級者になったら、おそらく専門用語の辞書の必要性を感じることでしょう。一つ一つの単語はネット検索などで調べがつくこともありますが、関連性のある派生用語をまとめて把握したいとか、ある分野に関する総括的な単語集を頭の中に持っておきたいといった目的がある場合には、もともとその目的で編纂された専門書や専門辞書を参考にするのが近道です。
【手軽に・気軽に・緊急に調べたい】
30年近く前、最初の中国語の先生から、目に入った漢字を片っ端から引け、と指導されていましたので、《新華字典》を持ち歩いていました。
今では、「発音を調べたい」だとか「ちょっと意味を確認したい」というだけなら、電子辞書やパソコン、スマホ等でも済ませられるようになりました。どっこらしょ、と紙の辞書を取りに行くことなく、外出中でも気軽に調べられます。
またパソコンではなくスマホやタブレットならではの利点として、画面に指で字を書く手書き入力ができることが挙げられます。発音の分からない漢字を調べるとき、紙の辞書ならば部首索引から引くことができますが、パソコンで部首引きをするのは少々手間がかかります。そんなとき、見たままの漢字を手書き入力すれば目指す漢字を出せるというのは、辞書引き業界の大革命ですね。
2.オンライン辞書
学習や詳しい調査では紙の辞書に軍配が上がるといっても、デジタル辞書ならではの活用法もあります。
【紙の辞書の代わりにしたい】
Weblio日中中日辞典
ある単語の語義、ある成語の背景、ある熟語の用例……、中国語についてなにかをきちんとした情報源で調べたい、と思ったときはこちらがお勧めです。
ベースとなっているのは白水社の『中国語辞典』のデータなので、きちんと編集された情報源として信頼できますし。語義解説や例文もしっかりしています。
一度自分が引いた項目の履歴が残るので見返すのも役立ちます。
私はちょうどこの白水社の書籍版を持っていないので、東方書店や大修館書店、小学館、講談社の辞書と比較検討したいときにも使っています。
【訳出の参考にしたい】
中日辞書 北辞郎
ふつう辞書に載っているのはある言葉の「意味」であって、「訳語」ではありません。でも、訳語が載っている珍しい辞書がこちらの北辞郎です。
北辞郎は、不特定多数の参加者が単語と訳語を入力し蓄積していく「成長する辞書」です。語義というよりも原語とその対訳が載っている点で用語集や専門辞書に近い性格を持っています。私もたまに追加することがあります。おそらく翻訳や通訳、研究リサーチなど前線で生の中国語に接している人が、自分の出会った言葉を記録するという使い方も多いのでしょう。かなり新しい言葉も収録されていて助かることがあります。
もちろん、入力者の誤解がそのままになっている恐れもありますので、別な情報源でも確認したほうが安全ではあるでしょう。
【異体字や繁体字を知りたい】
漢典
漢字そのものについて調べたいときに使える漢字の辞典です。ある字を引けば、その字の基本的な字義や、古典籍での用例がかかれています。web版の漢字辞典といえます。漢和辞典や《漢語大字典》《辞海》が手元にない場合、その代わりとして使えます。見たことのない字だなと思って調べると、意外にもよく知っている字の異体字だということが分かったりします。簡体字の人名を日本漢字に書きなおす際の確認などで、よく助けられています。
【例文検索ができる電子辞書・辞書アプリ】
電子辞書は機種によって収録辞書も異なりますし、百花繚乱、操作感の好みも人それぞれなので、どれがお勧めということはありません。
でも、電子辞書や辞書アプリの使い方としてたいへん便利なのが、例文検索です。ある単語について、項目として立てられている解説を読むだけではなく、辞書全体の例文のなかで、その単語が使われているものをリストアップしてくれるのです。どんな文脈でその単語を使うのか、どんな単語と組み合わせて使われるのか、といったことが複数の例文で確認できるので、語感を確認する際にとても役立ちます。
電子辞書や辞書アプリの購入をお考えの方は、例文検索機能の有無をぜひ選考基準に入れてください。
※ 辞書アプリの詳しい紹介
スマホやタブレットの辞書アプリを実際に使って詳しいレビュー記事を書いてくださっているMarieさんのブログ「Mandarin Note」(https://mandarinnote.com/)の「アプリで語学」カテゴリがとても参考になります。
【いわずと知れた検索エンジン】
百度
簡体字中国語の検索エンジンとして最も使われているのが百度(バイドゥ)です。百度のありがたいところは、〈百度百科〉〈百度知道〉など百度の各種サービスのコンテンツも検索結果に出してくれることです。
〈百度百科〉はwikipediaのようにweb上の百科事典といえる様相を呈しており、やはり中国国内の情報が詳しく記されているため役立つことがあります。
〈百度知道〉は「Yahoo!知恵袋」や「人力検索はてな」「教えて!goo」のようなサービスです。知りたいことを質問すると、知っている人が回答してくれるので、私も何度もお世話になっています。また、私が知りたいようなことは他の人がすでに質問している場合もあって、どこかの誰かが出した質問にどこかの誰かが答えた内容が百度の検索結果に表示されると、それだけで私の問題が解決することも。便利な世の中です。
Google(簡体字版)
https://www.google.com/webhp?hl=zh-CN
Google(繁体字版)
https://www.google.com/webhp?hl=zh-TW
上記のURLは検索エンジンGoogleで検索結果を簡体字もしくは繁体字で表示し、また検索対象も簡体字サイト、あるいは繁体字サイトを優先にするオプションが付いているものです。
簡体字圏での用語用例、繁体字圏での用語用例を知りたいときなどに必要に応じて使い分けるといいでしょう。
*次回はネットを活用した訳語調査(2)をお届けします。
〔筆者プロフィール〕
翻訳者、発音講師。中国史を専攻し、北京大学の大学院聴講生として民俗文学・民間文化を学ぶ。第二言語習得論と翻訳に魅了され、帰国後は中国語講師、翻訳コーディネーター、(株)東方書店で社内翻訳と書籍編集制作に携わったのち独立。訳書に『街なかの中国語』(東方書店)など。