【元曲選(げんきょくせん)】柳川俊之

 明代末期の1616年に臧懋循(ぞうぼうじゅん)によって編纂された、元代の演劇である「元曲」の脚本集で、100篇の元曲が掲載されている。収録されている脚本の多さ、読みやすさに加え、台詞やト書きも整っていることから元曲研究のテキストとして広く用いられている。発刊当時すでに行われなくなっていた元曲の脚本を、読み物として楽しむためことができる本であるが、明代に流行した戯曲である南曲の複雑で凝った演出に警鐘を鳴らし、元曲のようなシンプルでありながら面白い作風への回帰を促すという目的もあったと言われている。
 元曲は中国戯曲文学のパイオニアと言われており、元が金を滅ぼした13世紀中ごろから大都(現在の北京)を中心に急速に発展した。関漢卿(かんかんけい)、王実甫(おうじっぽ)、馬致遠(ばちえん)、白樸(はくぼく)などのすぐれた作者が登場し、『竇娥冤(とうがえん)』『西廂記(せいそうき)』『漢宮秋(かんきゅうしゅう)』『趙氏孤児(ちょうしこじ)』『梧桐雨(ごとうう)』『李逵負荊(りきふけい)』などの名作が残された。台詞を中心に当時の口語である白話が用いられ、当時の社会や人間生活が生き生きと表現されている。

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