この中国語、どう訳す?〔2〕
莉貝歌
論説体中国語を翻訳するときに誰もが悩むところを、今回もみなさまと共有していきたいと思います。
今回の悩みどころは、“直播”の訳し方です。
我以前从来没有做过直播。
“从来没有做过”は、「今まで一度もしたことがない」です。何をかというと“直播”ですね。
「じかまき」と読めば、畑にいきなり種を蒔くことです。実は中国語にもこの意味があり、辞書を引くと一番に出てきます。だから、この短文だけ見て語り手は農家の人であると考え、「私は今まで一度も直まきをしたことがない」と訳しても全然間違いではないと思います。いつも苗から育てているのですね。
しかし、今や中国では大変な“直播”流行りでして、ほぼ農業の話ではないわけです。必然的に、以下カタカナ語の嵐になり、書いていて胃が痛くなります。
ネット上のショッピングモール(日本でいえば楽天など)の商品紹介・販売“直播”も非常に盛んですし、各団体・会社・個人事業者の宣伝“直播”もあり、芸能人が楽屋などから発信する“直播”もあれば、日本でいえばユーチューバーのような人々が個人的に発している“直播”も、もちろん星の数ほどあります。ジャンルも細分化され、ゲーム実況・カラオケ配信・コスプレイヤーの変身実況などなど、いずれも昨今の新型コロナ流行を受けて、ますます盛んになっているようです。
これらを、どのように訳したらよいでしょうか。
“直播”を辞書で引くと、「生放送」「生中継」と出てくることが多いのですが、私個人の語感だと、テレビ番組限定の言い方のような気がしてしまいます。
もちろん、スポーツなどの“现场直播”という場合、テレビの生中継、現場実況放送と訳してよいのですが、テレビでないことが明らかな場合はどうしたらよいでしょうか。
Eコマースの商品紹介販売“直播”の場合、「ライブ配信」あるいは文脈によっては「ライブコマース」がいいようです。「生配信」も短くていいのですが、字面から生々しい感じがするので、字数がゆるせば「ライブ」を使いたい。
ライブであることにこだわらなくてよい文脈ならば、「プロモーション」も使えますね。
会社などの宣伝動画はどうでしょう。やはり「ライブ配信」か「プロモーション」がいいでしょうか。一方、Eコマース含め、イベントやセミナーをそのまま流す場合、「ストリーミング配信」という言葉もあります。
ただ、調べたところ「ストリーミング」は技術の名前で、あらかじめ録画したものを順に流すのが「オンデマンド配信」、同時に公開していくのが「ライブストリーミング」だということです。だから、「ストリーミング」を使いたければそこを踏まえて使わなくてはいけませんね。
最後に、個人が発信する“直播”の訳し方です。
これらは内容や性格が一色ではありません。いわゆるインフルエンサーが発するプロモーション要素の強いものもあれば、趣味の発信もあるでしょう。また、個人が目にした災害や事故などの報道にあたるものもあるはずです。
趣味や自己アピール的な短いビデオでは、“抖音”〔Tik-Tok〕アプリが優勢のようですが、“抖音”は録画したビデオを加工することのできるアプリなので、“直播”には含まれないということです。
そこで、“抖音”アプリを使っておらず、さらにライブであることが明らかな場合、インフルエンサー発信のものは「プロモーション」、趣味や報道の発信は「ライブ配信」と訳したら、当てはまる場合が多いのではないでしょうか。なお、今日出会った例では(これは新聞記事ではないのですが)、いっそ「ネット通販のMCをする」と訳したい場合がありました。