中国人にとっての論説体の難しさ

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 筆者は而立会で論説体中国語を学んでいます。学習の場では、中国人よりも日本人の参加者が圧倒的に多いのが常です。
 中文和訳は日本人にとって、自分の母国語へ翻訳することであり、中文の原文をしっかり理解できれば、上手く日本語に仕上げられるはずです。日本人からすれば、難しいのは原文の理解であり、つまり、翻訳作業の入口の部分か、と思います。
 一方で、中国語ネイティブの我々にとって、中国語が母国語ですし、ふつう中文の原文を理解するのは特に問題がなく、難しいのは如何にこなれた日本語に仕上げることのはずです。しかし、実際にやってみると、論説体中国語の原文を正しく理解することは決して思ったほど簡単ではないとしみじみ感じました。

 今回は論説体中国語原文の構文と言葉について、中国人の視点から感じていたことを、内容把握の面から簡単にまとめます。

・論説体中国語の構文
 助詞や接辞など付属語が膠着剤のように自立語を繋げて文法的関係をはっきり表す日本語と違って、中国語の文法的関係は主に語順により表されています。その一字一字の語順や「虚詞」〔文法的関係を示す単語〕の位置が変われば、意味も大きく変わります。
 我々は幼い頃からごく当たり前のようにそういう言語を操ってきました。とはいえ、学校教育の中で、中国語の構文を分析する訓練が行われた記憶はほとんどありません。その代わり、文章全体の趣旨に対する理解、段落の意味の要約、作文などが学校教育の重点でした。だから、文法上の関係を表す「虚詞」が一体に副詞なのか、介詞なのか、接続詞なのか、その区分も普段あまり深く考えませんでした。
 つまり、中国人が中国語の文章を理解する場合、文の細部に対する分析より、文の全体に対する把握に頼ることが多いのです。ですから長い文の文意は大体理解できるものの、特に100文字前後の長文を日本語に訳す時、中国語の潜在的な文法関係を正しく顕在化させなければならず、論理的に構文を分析するのが課題になります。たとえば、「要」の一文字が文のどこまでかかるかなどが、いつも悩む所です。

 2021年上半期 レベル第13回問題 レベル5の問題を例に説明しましょう。

许多国家的政府、企业、民间组织等持续开展一系列创新的活动,引导民众树立节约意识,养成良好习惯,共同减少粮食浪费。

 下線部“引导民众”、すなわち民衆をリードする内容は“养成良好习惯”、「良好な習慣の養成」までか、それとも“共同减少粮食浪费”、「食糧浪費の共同削減」までか、迷いました。考えに考えた結果、「大衆が節約意識を確立し、良好な習慣をつけるようリードし、共同で食糧浪費の削減に取り組む」という訳文にしました。つまり、“共同减少”“引导民众”の内容の一部ではなく、並列関係になるように訳したわけです。

 論説体の学習において、構文をきめ細かく分析する練習を重ねることで、構文に対する把握が少しずつ上達していると実感しています。

 次回は、論説体で使われる言葉に注目して論じたいと思います。

・論説体の言葉
 言語は流動的なものであり、時代に伴って生まれたり、新たな意味が賦与されたり、使わなくなって死語になったりします。たとえば新聞記事においては、時代的な特徴が極めて鮮明なので、多くの新語がみられます。
 また、古典の影響を受けていた中国語の書き言葉は、非常に要約された簡潔な表現が多いです。
 恥ずかしいことに、自分の母国語なのに、のみこめない時もあります。例えば、以下の3例。

① ……多边主义也要守正创新、面向未来。(2021年上半期 レベル第5回問題 レベル9)
⇒模範解答:多国間主義についても正しい形で革新をし、未来と向きあうことが必要である。

② ……农产品上行货损仍比较大。 (2021年上半期 レベル第12回問題 レベル3)
⇒模範解答:市場への出荷には依然として大きな商品ロスがある

金地社区借助提质提档资金相关政策支持,…… (2021年上半期 レベル第15回問題 レベル9)
⇒模範解答:金地コミュニティーではグレードアップ資金と関連政策の支援により、

 上記例文の「守正創新」や、「上行貨損」はどういう意味か、すぐにはピンと来なかったし、更に「提質提档」の「提档」が中国でよく話題にされる個人の身上調書のことか、一瞬戸惑いました。
 ネットで検索し、関連記事を調べた上で、ようやく理解しました。
・「守正創新」は「守正出新」をもとに作られた言葉で、これまでの文明の成果を正しく引き継ぐとともに、革新するという意味、最近、習近平総書記に度々言及されています。
・「上行貨損」は経済の場面で使われる新しい言葉で、農産物などの販売の段階におけるロスのことです。
・「提質提档」は最近、地域コミュニティのグレードアップの意味として使われます。
 今の中国の姿をよりよく日本語で伝えるには、普段から中国の新聞やニュースにもっと関心を持って、背景知識を充実させなくてはならないと反省しています。

 以上のように、論説体の学習では構文にしても、言葉にしても、高い理解力が求められています。この訓練を通じて、私は母国語の難しさと重要さを改めて認識しました。
 外国語専攻の人と言えば、一途に外国語の勉強に専念する人がほとんどです。しかし、正しく外国語に訳したいなら、母国語をきちんと理解するのが大前提です。普段、勉強する時に、外国語だけでなく、母国語の語学力もしっかり高めなければならないなと痛感しています。
 中文和訳は中国人にとって、外国語に訳すことであり、如何に柔らかいこなれた日本語に仕上げるか、至難の業だと感じています。少しでも日本語ネイティブの訳文に近づけるように、引き続き、努力と研鑽を重ねていきます。

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