憶旧三篇~食堂の思い出
中日対照エッセイ
山口県に住んでいらっしゃる呉菲さんのエッセイを会員が訳しました。最後の1篇です。
忆旧三篇 食堂杂忆
吴 菲
小时候,父母工作的单位食堂几乎就是我们日常生活的中心。在那个只有两百多人的单位大院里,不论单身职工,还是拉家带口的双职工,一天三顿都靠食堂提供。除了伙房和饭厅,单位食堂竟然还有猪圈和马厩。
过年时,伙夫就在大院里杀猪。当天一早,我总是在猪的惨叫声中醒来,想接着睡个懒觉都不行。杀猪的全过程看过很多次,早就没了新鲜感。倒是母猪生小猪不那么常见。在脏兮兮的围栏边,大人小孩都伸着脑袋拼命往里张望。可能是因为个子太小没看到,我对小猪的降生过程毫无印象,只记得猪食和猪屎混杂的刺鼻气味。
马厩里有一匹温顺而沉静的棕色老马,用来拉车。马车是食堂采购食材的专用车辆,车夫姓李,大院里不论男女老幼,都叫他李大哥。李大哥的家就在附近农村,他的打扮和做派也保持着农民本色。不用外出采购时,时常看见他蹲在马厩门前悠闲地抽他的水烟筒。
不知是谁,为李大哥编了一首打油诗,全单位的大人小孩都会念:
李大哥,
赶着马车笑呵呵。
要喝茶水么喊马撒,
要吃汤圆么喊马屙。(用云南方言念的话,“e”的音统统作“uo”,韵脚听起来更加柔和。)
我们这些小孩大多在城里的小学上学,来回要走很远的路。每当半道上遇见单位的卡车或马车,我们就拼命招手呼喊,指望搭上便车。卡车司机比较傲慢,心情好时才为我们停车。而李大哥只要载货不多,总会停下来等我们。马车虽然颠簸,却别有一番乐趣。几个小孩坐在上面忍不住一起大声念:“李大哥,赶着马车笑呵呵……”李大哥也不生气,只管吆喝着马,开开心心地载着我们回家。
一天晚上,老马突然死在了马厩里。那之后,食堂采购就改用了卡车。而李大哥去了哪里,我完全没有印象了。
多年后听家里人提起李大哥,说他回了乡下,年纪已经很大,但身体依然硬朗。不过,那也是很久以前的事了。
食堂の思い出
子供の頃、日常生活の中心は両親の職場の食堂だった。二百人ちょっとの職場の居住区では、独り身も家族連れの共稼ぎも、一日三食、全てその食堂の世話になった。そこには調理場と食堂以外に、豚小屋と厩(うまや)まで併設されていた。
年越しのときは炊事夫が居住区の敷地内で豚を屠(ほふ)る。当日は朝早く豚の悲鳴の中で目が覚めるのが恒例だった。二度寝をしようにもできるものではない。豚の屠殺の一部始終は何度も目にしたので、もの珍しさはすぐに感じなくなった。だが、母豚が子豚を産むところはそうそうお目にかかれるものではない。うす汚れた柵の周りで大人も子供も首を伸ばして懸命に中を覗いていた。おそらく背が低すぎて見られなかったからだろう、私には子豚が誕生する過程について全く記憶がない。ただ豚の餌と尿の入り混じった刺激臭だけを覚えている。
厩には馬車を曳かせるため、大人しいとび色の老馬が一頭飼われていた。馬車は食堂の食材買い出し専用で、車夫は李さんといった。居住区の中では老若男女誰もが彼のことを「李兄(に)い」と呼んだ。李兄いの家は近くの農村にあり、身なりやふるまいも農民そのものだった。外に買い出しの用がないときは、厩の入り口の前でしゃがみ、のんびりと水たばこをくゆらす姿をよく見かけた。
誰が作ったのかは知らないが、李兄いをネタにした囃子歌(はやしうた)が広まり、居住区の中では大人も子供も誰もが口ずさむことができた。
李兄い、李兄い
馬車を走らせ高笑い
お茶を飲みたきゃ馬の小便
団子が食べたきゃ馬のクソ(雲南方言では標準語の“e”の発音は全て“uo”となり、母音がもっと柔らかく聞こえる。)
私たち子供はほとんどが町の小学校に通っていたので、往復の長い道のりを歩かなければならなかった。途中で職場のトラックや馬車を見かけると、乗せてもらおうと懸命に手を振って叫んだものだ。トラックの運転手はちょっと威張っていて、停まってくれるのは気分が良いときだけだった。だが、李兄いは積荷が多くなければいつも馬車を停め、子供たちを待ってくれた。馬車の上はよく揺れたが、何だかわくわくした。子供たちが数人乗れば、こらえきれずに大声で一斉に囃し立てる。「李兄い、李兄い、馬車を走らせ高笑い……」李兄いは怒りもせず、ただ馬を走らせ、上機嫌で我々を家に送ってくれた。
ある夜、老馬は厩でぽっくり死んだ。それからは食堂の買い出しもトラックに替わってしまい、李兄いの行方については私の記憶から完全に消えている。
何年も経ってから、家族が李兄いについて話題にしたことがある。田舎に帰り、年はとったが達者に過ごしているという。だが、その話を聞いたのもずいぶん昔のことになってしまった。
(翻訳 笠原寛史)
作者の呉菲さん略歴
呉菲(WU/Fei) 中国雲南省生まれ。大連外国語大学日本語学部卒業。1996年来日、山口大学大学院人文科学研究科修了。翻訳者。山口県在住。
主な翻訳作品は金子みすゞ童謡集『明るいほうへ/向着明亮那方』(2007年)、『星とたんぽぽ/星星和蒲公英』(2012年)、『みんなを好きに/全部都喜欢』(2017年)ほかには、宮沢賢治詩集『春と修羅/春天与阿修罗』(2015年)、中原中也詩集『山羊の歌/山羊之歌』(2018年)、まど・みちお詩集『やぎさんゆうびん/山羊的信』(2020年)などがある。
2017年、金子みすゞ童謡詩集『明るい方へ/向着明亮那方』(2007年)に収録されていた「雲/云」と「次から次へ/一个接一个」が中国の小学校一年生の国語教科書に正式に採用された。